横浜国際フェスタ

横浜国際フェスタ2007参加企画「ふれあい手話ミニ教室」実施報告

2007 年10月27日(土)〜28日(日)に「横浜国際フェスタ2007」がパシフィコ横浜展示ホールで開催され、アメリカ・カナダ大学連合日本研究センターも参加国際機関のひとつとして「ふれあい手話ミニ教室」というブース展示を行いました。以下その概要をご報告します。

ご来場ありがとうございました

「ふれあい手話ミニ教室」は、ふだん手話に接する機会がない一般の方々に、ろう者の言語である手話に気軽にふれて、その魅力を楽しくご理解いただくクイズ形式の手話紹介ブースです。手話のおいしいところが味わえる、いわば手話の試食コーナーといった催しです。2日にわたるフェスタ期間中、ろう者スタッフ(講師役8名)と聴者スタッフ(助手役10名)がペアを組み、約300名の来訪者に個別対応しました。

老若男女、実にさまざまなお客様がミニ教室を訪れ、国際フェスタらしく日本語を母語としない外国の方々も日本の手話を学ばれました。ほとんどの来訪者は手話が初めてでしたが中には、かつて手話を学んだ経験のある方、あいさつなどの定型表現ができる方、歌詞に手話の対訳を添えて披露してくれた小学生(学校で習ったとのこと)、自分の名前を指文字で言える幼児など、手話に接した経験をもつ方々もいらっしゃいました。さらに、ろう者(一般来場者)の方も何人(何組)かミニ教室に立ち寄り、スタッフと手話で会話を楽しむ姿が見られました。

あの手この手で手話を紹介

来訪者に負けず劣らず、ろう者スタッフの顔ぶれも多彩(多才)で、手話の指導方法もそれぞれ個性豊かでした。初日10月27日(土)は「日立ユビキタススクエア横浜」で毎月手話案内を行う日立製作所のろう社員の方々を講師としてお招きしました。日頃から手話を用いて接客しているだけあって、来訪者への対応は懇切丁寧なものでした。2日目10月28日(日)は、手話教師、手話狂言師、ホームページデザイナーとして活躍中の方々を講師としてお招きしました。手話教師は語学教育の専門家らしい熟達した技法を惜しげなく発揮し、いっぽう手話狂言師の豊かな表情と巧みな身体の動きには、ことば以上の説得力がありました。また普段コンピューターと向き合うホームページデザイナーの手話は無駄がなく明瞭で見やすく来訪者の理解を促していました。

手話とはどんな言語なのか

早合点して「手話は世界共通」だと考える方が多いようです。今回の手話ミニ教室でも同様の質問が寄せられました。もちろん手話は世界共通ではなく、一般の音声言語が国や地域によって異なるように、手話も国や地域ごとに異なり、また世代間の微妙な違いもあります。

手話は、身ぶり手ぶりを組み合わせて人工的に作り上げたコミュニケーションの補助手段だとよく誤解されがちです。そのようなジェスチャーあるいは「なんちゃって手話」は確かに意志伝達の役には立ちますが、言語とよぶことはできません。

ろう者同士が用いる本当の手話は、まぎれもない言語です。日本語や英語などと同じく、自然(に発生した)言語のひとつです。独自の文法規則や語彙体系をもち、どんなに複雑な内容でも効率よく表現できる言語です。ただひとつだけ一般の言語と手話が異なるのは、手話が音声つまり聴覚に頼るのではなく、身体の動きで情報を伝える視覚言語であるという点です。

手話の表現方法

音声言語に慣れ親しんだ(耳の聞こえる)人にとって、音声を用いない手話は、驚きであり、新鮮であり、感動的ですらあります。手話の学習経験は、ほかの外国語では味わえない興奮を与えてくれます。それを実感いただくため「ふれあい手話ミニ教室」では例として次のような手話表現を紹介し、来訪者ご自身にもお試しいただきました。

(1a) 彼話します。 (1b) 彼話します。
(2a) ドアがあきます。 (2b) ドアをあけます。
(3a) 人が集まります。 (3b) 人を集めます。
(4a) ファックスが壊れました。 (4b) ファックスを壊しました。
(5a) 本を読みます。 (5b) 本を読みました
(6a) 本を読んであげた (6b) 本を読んでもらった
(7a) 本を読ませた (7b) 本を読まされた

これらの文を手話で具体的にどう表現するかは、脇中起余子著『よく似た日本語とその手話表現』北大路書房2007年刊の図解と説明をご参照ください。「ふれあい手話ミニ教室」の企画にあたり、この本から多くのアイデアを拝借しました。また例文(4)は、斉藤くるみ著『少数言語としての手話』東京大学出版会2007年刊からお借りしました。

手話では、日本語の助詞「1.〜に/〜と」や「2.〜が/〜を」などに当たるものを明示せず、また自動詞と他動詞たとえば「4.壊れる/壊す」が同じ表現になる場合がよくあります。このように手話には助詞がなく、自動詞と他動詞を区別しなくても、混乱が生じることはありません。それは日本語とは異なる文法機能がきちんと働いているからです。たとえば英語のbreakが自動詞「(〜が)壊れる」と他動詞「(〜を)壊す」の両方を兼ねていても不都合が生じないのと同じようなものです。日本語と英語が異なるように、日本語と手話も異なる言語ですから、表現のしかたが違っていて当然です。

上の例文(2)と(3)は、手話でも自動詞と他動詞の区別をします。さらに手話の「あく/あける」はドアの形状やあけ方によって別の単語(表現形式)を選び、微細な違いまで示すことができます。

(5)から(7)は「本を読む」という共通部分に付属する(5)時制、(6)授受、(7)使役・受身を手話でどう表現するかが問題となります。手話ではこれらの各文法形式は、瞬時の動作で簡単に伝えられます。詳しくは『よく似た日本語とその手話表現』をご覧ください。

視覚と聴覚という伝達の経路こそ異なれ、本質的に手話は音声言語と何ら変わりません。日本語で言えることは、すべて手話でも表現できます。しかも手話のほうが短時間に多くの情報を効率よく伝えられる場合すらあります。たとえば(2b)のドアをあけるという内容を伝えるのに、日本語では「ドア」「を」「あけます」という3語を直線的に結び付けて順番に音声化しなければなりませんが、手話なら同じ内容をたった1語で、しかも先に述べたようにドアの形状やあけ方の違いまで表現できるのです。

第二言語としての手話

手話を母語(第一言語)として育ち、その後、日本語の読み書きを第二言語として学んだろう者からみると、日本語は主語が隠れているので文意が理解しにくいことがあるそうです。このような感想は、外国語として日本語を学ぶ英語話者などがよく口にする印象と共通しています。主語を明示する手話は、むしろ英語の感覚に近いようです。

ろう者とは反対に、日本語を母語とする聴者にとって、手話は外国語(第二言語)です。しかしそれは単なる外国語ではなく、音声に頼らない視覚言語であるという驚嘆すべき特性を備えているのです。これから新たに未知の外国語を習い始めたいと考えている方には特におすすめの言語です。

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アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター
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